『失踪日記』 [漫画、アニメ]
吾妻ひでおの久々のヒット作を読んだ。
去年、紀伊国屋で実物を見たときから気になっていたんだ。
でもビニ本で中身がどんなか確認できなかったし、値段も高めだったのでパスしていた。
賞かなんかとったんで、これは読んで置いたほうがいいいと思って、アマゾンに注文しちゃいました。
1989年から10年くらいの著者の異常行動を客観的に自虐的に綴った奇跡的名作。
「全部実話」だそうなので、吾妻ひでおという漫画家の実像を知る資料としても役に立つのだが、それ以上に、ひとつの読み物としての完成度が高くて驚かされた。
吾妻ひでおがいかにプライドの高い芸術志向の持ち主であることを、私はこの漫画を読むまで、今まで見逃していたようだった。
芸術家としてのエゴが、彼を穏やかなアナーキストにしているらしいのがわかって、面白かった。
もちろん、漫画としても面白く読めた(もともと彼のファンだったし)。
本編は3部にわかれている。
第一部は「夜を歩く」、約60ページ。
89年に執筆活動がいやになり、失踪してホームレス暮らしをする。
このときは、もっぱらゴミ漁りや小額の窃盗によって生活を成り立たせていたようだ。
徘徊中、警察官に不審者として検挙され、奥さんから捜索願が出ていることが分かり、家に連れ戻されて、おしまい。
その後、また漫画を描いていた様だ。
そして第2部「街を歩く」、約80ページ。
92年、やはりまた執筆活動がいやになり、失踪してホームレスになる。
今度は早期に配管工の仕事にありつき、職業訓練も受けさせてもらい、それなりに充実した肉体労働者ライフを満喫したようだ。
盗難自動車に乗っているところを警察に検挙され、やはり家族からの捜索願が出されていることがわかり、家に連れ戻される。
しかし、すぐには漫画家稼業に戻らず、今度は家から盗難車でない、ちゃんとした自転車で、配管工の仕事に通うようになる。
しかし、そのうち、ガス会社で、責任のある仕事を任されそうになってきて、それを機会に、肉体労働者生活とは縁を切り、再び、芸術家に戻る。
それでこの章は終わらず、さらにデビューから現在までを振り返る。
デビュー当時は編集部の言いなりになってひたすら漫画を量産する作業に追われることにたいする不満、そしてだんだんマイナー雑誌を舞台にするようになって、自由に執筆活動ができるようなってきたことが綴られている。
もっとも面白いのが第三部「アル中病棟」、約50ページ。
97年ごろから慢性アルコール中毒の症状が出て、精神病院に強制入院させられて治療を受けることになるのだが、そのドキュメント。
漫画界という閉鎖的な反社会的な世界の住人だった彼が、一気に開かれた世界と接触することになり、その著者のとまどいがあらわれていて面白い。
巻末付録にとり・みきとの対談が載っているが、これはあってもなくてもいいようなもの。
できれば、くだらない対談の部分は削って、販売価格を下げて欲しかった。
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